
セットバック費用は意外に高い?空き家でも知っておくべき注意点
松山市でご実家などの空き家を相続された方の中には、「古くなった家を建て替えたい」「売却して整理したい」とお考えの方も多いでしょう。
しかし、いざ計画を進めようとした際に、「セットバック」という聞き慣れない言葉に戸惑ってしまうケースは少なくありません。
特に松山市内の昔ながらの住宅地に建つ空き家の場合、このセットバックが必要になる可能性が非常に高いのです。
そして、セットバックには、無視できないほどの費用がかかることも事実です。
この記事では、松山市で空き家業務を専門とする行政書士として、宅地建物取引士や認定空き家再生診断士の知識も交えながら、セットバックの費用とその注意点、そして対策方法をわかりやすく、かつ網羅的に解説します。
この記事が、あなたの空き家問題解決の一助となれば幸いです。
セットバックとは?空き家で知っておくべき基本知識と法的根拠

セットバックの基本概念と目的
セットバックとは、建物を建てるための道路が建築基準法で定められた幅員(原則4メートル以上)に満たない場合、その道路の中心線から2メートル後退したところに建物の境界線を設けることを義務付けたルールです。この後退した部分が「セットバック部分」と呼ばれます。

セットバックが求められる主な目的は、公共の利益にあります。
- 災害時の安全確保: 道路幅を広げることで、火災や地震などの緊急時に消防車や救急車といった緊急車両がスムーズに通れるようにし、人命救助や消火活動を円滑にします。
- 住環境の向上: 道路が広がることで、日照や通風が確保され、快適な居住空間を創出します。
- 地域の価値向上: 防災性や利便性が向上することで、街全体の資産価値を高める効果も期待できます。
セットバックと建築基準法第42条第2項道路(みなし道路)の関係
セットバックは、建築基準法第42条第2項に規定される「2項道路」または「みなし道路」と呼ばれる特殊な道路に面した土地に適用されます。
この法律は、建築基準法が制定された昭和25年(1950年)以前から建物が立ち並んでいた、幅4メートル未満の道路を特例的に「道路」とみなすものです。
建築時には適法だった古い空き家の多くは、この2項道路に面していることが多いため、建て替えや増改築を行う際に、「既存不適格建築物」として現行の法律に適合させるためのセットバックが必須となるのです。
セットバックが完了していないと、自治体の行う完了検査が下りず、検査済証の発行がされません。
建築基準法第42条の具体的な内容
- 第1項: 道路法による道路、都市計画法による道路など、原則として幅員4メートル以上のものを「道路」と定めています。
- 第2項: 建築基準法施行時(昭和25年)に、現に建物が立ち並んでいた幅員4メートル未満の道路で、特定行政庁が指定したものを「道路とみなす」と定めています。
セットバックは、この第2項道路に面した土地に対して、将来的に4メートルの道路幅員を確保するために設けられた制度です。セットバック部分には、建築物の建築や増改築はできません。
セットバック費用は意外に高い?相場と内訳、計算方法を徹底解説
セットバックにかかる費用は、一般的に数十万円から数百万円に及ぶこともあり、その相場は40万円〜130万円程度とされています。この費用の内訳を理解しておくことが、予期せぬ出費を避けるために重要です。

セットバックの費用相場の内訳と変動要因
セットバック費用は、主に以下の項目で構成されます。
費用項目 | 一般的な相場(概算) | 主な内容 |
土地測量費 | 15万~65万円 | 道路の中心や後退する境界線を正確に測量する費用です。隣地との境界が不明確な場合は「境界確定測量」(高額)が必要となり、境界が確定している場合は「現況測量」(安価)で済みます。 |
土地分筆登記費用 | 5万~7万円 | セットバック部分を元の敷地から法的に分割し、登記する費用です。測量と合わせて土地家屋調査士に依頼するのが一般的です。 |
解体・撤去費用 | 5万~20万円(門・塀) | 道路との境界にあった塀、門、擁壁、樹木などを撤去・移設する費用です。建物本体の解体費用は別途発生します。 |
舗装・整備費用 | 10万~50万円+5,000円/㎡ | セットバックして生まれた土地を道路として整備する費用です。アスファルト舗装や側溝の設置、重機搬入の有無などで費用が変動します。 |
【費用の変動要因】
- 境界の明確さ: 隣地との境界が不明確な場合、高額な境界確定測量が必要になります。
- 既存構造物の有無: 門、塀、擁壁などがある場合、撤去・移設費用が発生します。
- 土地の高低差: 道路との高低差がある場合、整備費用が大幅に増加します。
- 道路の状況: 向かい側が後退できない場合、自分の土地で全ての後退距離を負担するため、費用が大きくなります。
道路幅員とセットバック費用の関係
セットバックする面積は、道路の幅員が狭いほど大きくなります。
- 向かい側にも建物などがある場合: 道路の中心線から2メートル後退するため、前面道路の幅が3メートルなら0.5メートルずつ、2メートルなら1メートルずつの後退が必要です。
- 向かい側に川、崖、線路などがある場合: 物理的に後退できないため、自分の敷地側だけで4メートルを確保する必要があります。前面道路が3メートルなら1メートル、2メートルなら2メートルの後退が必要です。
セットバックの計算は、道路の中心線が物理的な中央と一致しない場合や、自治体独自のルールがある場合があるため、専門家による正確な測量と確認が不可欠です。
セットバックしない選択とそのリスク

非課税措置の注意点と私的利用の禁止
セットバックした土地は、公共の道路として利用されるため、一定の条件を満たせば固定資産税や都市計画税が非課税となります。
しかし、これには「道路として松山市に寄付する」などの所定の手続きが必要です。
また、非課税措置の対象となるのは「公共の用に供されている」場合に限られます。セットバック部分に植木鉢や自転車、自動車などを置く私的利用は非課税措置の対象外となり、税金が課税されるだけでなく、近隣トラブルや行政指導の原因となるため注意が必要です。
セットバックを拒否した場合の影響
セットバックは、建て替えや増改築を行う際の「義務」です。
これを拒否した場合、以下のような長期的リスクを伴います。
- 再建築不可物件になる: 新築や建て替えができなくなり、資産価値が大幅に低下します。
- 売却機会の損失: 買い主にとって制約が多いため、売却価格が安くなったり、買い手が見つからなかったりするリスクがあります。
- 特定空き家指定のリスク: 防災上のリスクが高いと判断され、「特定空き家」に指定されると、固定資産税の優遇措置が解除され、税負担が最大6倍に跳ね上がる可能性もあります。

セットバック費用に関するよくある質問とトラブル事例
セットバックが必要な空き家を売却する場合、費用は誰が払うの?
売主と買主の交渉次第ですが、一般的には売主が費用を負担してから売却することが多いです。セットバックが未了の物件は、買主にとって追加費用や手続きの手間が発生するため、敬遠されがちです。売主が費用を負担することで、物件の魅力を高め、売却をスムーズに進められます。
建て替えではなくリノベーションでもセットバックは必要?
リフォームやリノベーション(大規模な増改築を伴わない場合)であれば、原則としてセットバックは不要です。しかし、用途変更を伴う大規模なリノベーションの場合は、建築確認申請が必要となり、セットバックが求められる可能性があります。
セットバックのトラブル事例と対策
- 新築時のトラブル: セットバックを考慮せずに新築計画を進めてしまい、後から多額の費用が発生したり、計画を変更せざるを得なくなったりするケースがあります。対策としては、計画の初期段階で役所への確認と専門家への相談を徹底することです。
- 隣地・向かい側とのトラブル: セットバックは道路の中心線から後退するため、向かい側の土地所有者も同様に義務を負うのが原則です。しかし、向かい側がすでにセットバック済みの建物だったり、建て替えの予定がなかったりすると、足並みが揃わずトラブルになることがあります。対策としては、正確な測量と隣地所有者との事前協議が不可欠です。
まとめ|セットバックは「見えない負債」を解決する一歩
松山市の空き家におけるセットバックは、建て替えや売却を検討する上で避けて通れない重要な課題です。
セットバックは費用や手間がかかりますが、放置すると「建てられない」「売れない」といった深刻な問題につながります。逆に、セットバックをきちんと行うことで、土地の資産価値を維持し、次世代に引き継ぐことができるようになります。
村上行政書士事務所は、空き家業務専門の行政書士として、宅地建物取引士や認定空き家再生診断士の知識を活かし、セットバックに関するご相談から、空き家全体の活用・処分までワンストップでサポートしております。
「うちの空き家はセットバックが必要?」「セットバック費用はどれくらいかかるの?」

もし、このような疑問をお持ちでしたら、まずは一度ご相談ください。松山市の皆様が、大切な空き家を安心して次のステップに進められるよう、全力でサポートいたします。
参考サイト→松山市狭あい道路等拡幅整備